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大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)5813号 判決

原告 富士産業株式会社

被告 朝揚産業株式会社

主文

別紙目録〈省略〉記載の電話加入権につき訴外内外興産株式会社と被告との間の譲渡契約はこれを取消す。

被告は別紙目録記載の電話加入権につき昭和二十八年十一月十七日にした譲渡承認手続抹消の手続をすること。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一項乃至第二項同旨の判決を求め、その請求の原因として。原告は大阪市東区高麗橋三丁目七番地訴外内外興産株式会社に対し昭和二十八年十一月初旬当時合計金百九十一万九百四十三円の債権を有していた。ところが、訴外会社は当時経営難に陥り原告以外にも多額の債務を負担して居り且つ別紙目録記載の電話加入権以外には見るべき資産が殆んど皆無の状態であつたにかゝわらず、原告その他の債権者を害することを知りながら、同月十七日被告に対し別紙目録記載の電話加入権を譲渡し、その承認請求手続を完了した。よつて被告に対し右電話加入権譲渡契約の取消及びその譲渡承認手続の抹消手続を求める旨陳述し、被告の抗弁に対し、訴外会社が昭和二十九年二月十五日午前十時大阪地方裁判所に於て破産宣告並に同時破産廃止の決定があり、該決定が既に確定したことはこれを認めるが、これにより当然訴外会社の法人格が消滅するものではない。即ち、訴外会社は昭和二十八年十二月八日解散し清算手続中前記のように破産宣言及び同時廃止の決定があつたものであるが、かゝる場合残余財産がある限り訴外会社は破産財団の管理及び処分をする権利を回復し、再度清算手続に戻るべきものと解すべきところ、訴外会社には、

(一)  原告が訴外会社に対してした大阪地方裁判所昭和二十八年(ヨ)第三三二八号仮差押決定に基き仮差押執行中の見積価格金九万五千三百円相当の有体動産

(二)  原告の訴外会社に対する大阪地方裁判所昭和二十八年(ヨ)第三三二八号及び三三三三号仮差押命令申請のための供託金十三万円に対する担保権利者としての担保債権

(三)  本訴取消の目的たる電話加入権

等の残余財産があり、その清算は未だ結了していないから、訴外会社はその清算の目的の範囲内に於てなお存続するものとみなされるべきである。よつて、訴外会社が破産及び同時廃止の決定により消滅したことを前提とする被告の抗弁は理由がない、と述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は、本件口頭弁論期日には出頭しなかつたが、同人提出の答弁書及び準備書には「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求める。答弁として、別紙目録記載の電話加入権につき昭和二十八年十一月十七日訴外内外興株式会社から被告に対する譲渡承認請求手続がなされたことはこれを認めるが、爾余の事実はこれを争う。本件電話は、訴外会社が被告に支払うべき家賃で訴外末広貿易株式会社名義を以て架設し、その後訴外会社の懇請により同会社名義に変更したものであつて、実質上は被告の権利に属するものであつたのを、昭和二十八年十一月十七日本来の権利者である被告名義に書換えたにすぎず、形式上は譲渡であつても実質上は被告が訴外会社から譲渡を受けたものではない。仮に右が詐害行為に該当するものとしても、被告は当時原告その他の債権者を害することを知らなかつたものであるから被告に対しその取消を請求することができない又仮に右行為が詐害行為に該当し且つ取消さるべきものとしても訴外会社は昭和二十八年十二月八日解散し清算中のところ、同二十九年二月十五日午前十時大阪地方裁判所に於て破産宣告並に同時破産廃止の決定があり、該決定は既に確定し、訴外会社の登記簿も閉鎖されその法人格は茲に消滅し、右電話加入権の帰属すべき権利主体が存在しないことになつたから、原告の右取消権の行使はこれを許すべきものではない。」旨の記載があるから、右記載はこれを陳述したものとみなされる。

理由

別紙電話加入権につき昭和二十八年十一月十七日訴外内外興産株式会社から被告に対する譲渡承認手続がなされたことは当事者に争がない。

被告は、右電話加入権は形式上右訴外会社名義になつていたが、実質上は被告がその権利者であつたのを、昭和二十八年十一月十七日本来の権利者である被告名義に変更したまでゝあつて、被告が訴外会社から譲受けたものではない旨主張するが、これを認むべき何等の立証がない。すると、他に反証のないかぎり、訴外会社がこれを被告に譲渡したものと認むべきである。

よつて、右譲渡が詐害行為に該当するかどうかを考えるに、真正に成立した公文書と推定すべき甲第四、五号証、証人太田栄治郎及び渋田見秀雄の各証言によつて真正に成立したものと認むべき甲第六号証及び同証言並に弁論の全趣旨を綜合すれば、原告は昭和二十八年十一月初旬に於て右訴外会社に対し合計金百九十一万九百四十三円の約束手形金債権を有していたが、訴外会社はこの外訴外村田四郎外二十数名に対し約六千余万円の債務を負担し、金融閉塞のため一般に支払を停止し支払不能の財産状態にあつたこと及び訴外会社は当時社員の給料の支払にも窮し在庫品を処分してその支払に充てる状態であつて、本件電話加入権の外他に見るべき財産が殆んどなかつたことが認められ、これに反する証拠がない。そうすると、かゝる際訴外会社が被告に対し本件電話加入権を譲渡したのは、明かに原告その他の債権者を害することを知りながらあえてこれを譲渡したものと認むべきである。被告は右譲受当時訴外会社の債権者を害することを知らなかつた旨主張するが、この点についても何等の立証がなく、却つて真正に成立した公文書と推定すべき甲第一、二号証によれば、訴外会社と被告会社とはその本店所在地を同じくし、且つ取締役滝茂、中村研治郎及び監査役浅水宏一等は両社共通であることが認められるから反証のないかぎり被告会社に於ても右事実を知りながら本件電話加入権の譲渡を受けたものと推認すべきである。

そうすると、右譲渡は原告及び他の債権者の債権保全のためこれを取消す必要があるものというべきところ、被告は訴外会社は既に消滅し本件電話加入権の主体たり得ないから、原告の右取消権の行使を許容すべきではない旨抗争するので按ずるに、訴外会社が昭和二十八年十二月八日解散しその清算中同二十九年二月十五日午前十時大阪地方裁判所に於て破産宣告並に同時破産廃止の決定を受け、該決定は既に確定したことは当事者間に争いがない。ところで、清算中の会社が破産宣告を受け同時廃止の決定があつたときに、その法人格が消滅するかどうかについては議論のあるところであるが、破産廃止があれば破産者は破産財団に属する財産の管理及び処分の能力を回復するものであるから、残余財産があるかぎり、清算会社は再び清算に戻るべきであり、その清算の目的の範囲内に於て会社はなお存続するものとみなされるから、破産廃止によつて当然に会社の法人格が消滅するものと解すべきではない。而して、真正に成立したものと推定すべき甲第三号証によれば、原告は訴外会社に対する大阪地方裁判所昭和二十八年(ヨ)第三三二八号仮差押決定に基き見積価格合計金九万五千三百円相当の訴外会社の動産の仮差押をしていることが認められ、訴外会社は少くとも右財産を有することが明かであるから、右破産廃止により再び清算手続に戻るべく、その清算の目的の範囲内に於て訴外会社はなお存続するものとみなさるべきである。よつて、訴外会社が右破産廃止により既に消滅したことを前提とする被告の右抗弁は理由がない。

以上の認定によれば、訴外会社と被告との間の本件電話加入権譲渡についての原告の取消権の行使は正当であるから、右譲渡契約の取消並にその譲渡承認手続の抹消手続を求める原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 坪井三郎)

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